労働災害
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労災についても、交通事故と同様に、医療が絡む問題だけに素人では対処が非常に難しい問題です。
労災については、労災保険から保険金を受領するだけではなく、勤務先からも損害賠償を得られるケースも非常に多くあります。
(1) 審査請求
- 被災労働者又は遺族等は、労働基準監督署長が行った保険給付の不支給決定に対して不服がある場合には、その決定をした労働基準監督署の所在地を管轄する労働局に置かれている労災補償保険審査官(以下「審査官」といいます。)に不服の申し立てをすることができます。
不服申立ては、直接、審査官に対して行うことができますが、審査請求人の住所を管轄する労働基準監督署長や保険給付に関する決定をした労働基準監督署長を経由して行うこともできます。
不服申立ては、保険給付に関する決定があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に行わなければなりません。
(2) 再審査請求
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審査官の決定に不服がある場合や審査請求後3か月を経過しても審査官による決定がない場合には、労働保険審査会に対して、再審査請求をすることができます。
再審査請求は、文書で労働保険審査会に対して行います。なお、再審査請求人の住所を管轄する労働基準監督署長、最初に保険給付に関する決定をした労働基準監督署長や審査官を経由して行うこともできます。
再審査請求は、審査官から決定書の謄本が送付された日の翌日から起算して60日以内に行わなければなりません。
再審査請求では、テレビ会議方式で、審査会に意見を聞いてもらうこともできます。しかし、審査は形式的な印象で、なかなか意見が通らないのが実情です。
(3)訴訟
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労働基準監督署長が行った保険給付に関する処分についての取消訴訟は、その処分についての再審査請求に対する審査会の裁決を経た後でなければ提起することができません。
ただし、再審査請求後3か月を経過しても審査会の裁決がないときは提起することができます。
再審査請求が通らない場合でも、裁判官の方が記録をきちんとみてくれて、正しい判断をしてくれる確率が非常に高いと言えるでしょう。
最近の事例
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Bさんの事案
Bさんは、長年トラックの運転手をしてきたのですが、労災事故に遭い、尾てい骨を骨折してから、足にしびれが生じ、まともに歩けなくなりました。
数々の病院に行くも、しびれの原因がはっきりとせず、全く治らない状態が続きました。
その後、大阪の大病院に行ったところ、血管障害を疑われ、血管障害の治療で有名な教授を紹介されました。
しかし、同教授からは、先天的な血管障害を疑われ、取り扱ってもらえない状態となりました。
しかし、担当の兼光弘幸弁護士が専門書を読み込んでみても、症状発症の経緯、症状の特徴から見て、どう見ても先天的なものとは思えず、その後、医学論文を検索して知った北海道の血管障害の専門医に診てもらうことをBさんに提案したところ、しびれに苦しむBさんは、すぐにその医師に診察予約をして、北海道に飛び立ちました。
Bさんは、そこで、2つの検査をしましたが、逆に、血管障害ではないことが判明しました。
しかし、その医師がBさんの症状は梨状筋症候群の可能性があることを説明してくれました。ただ、その医師は、梨状筋症候群の専門医ではないため、その専門医を自分で探す必要がありました。
そこで、香川の医師に梨状筋症候群を診られる医師を紹介してもらえるようにお願いしたのですが、進展しません。
そのため、兼光弘幸弁護士が、医学文献検索をし、山形の医師が圧倒的に多い手術例を経験されていることを発見。そのことをBさんに伝えたところ、Bさんは早速、山形へ飛び立ちました。Bさんが、そこで、同医師の検査を受けたところ、ほぼ間違いなく梨状筋症候群であることが判明。ただ、実際に手術をして、患部を開いてみなければ確定診断はできないため、Bさんは、手術の予約を取って一旦香川に戻り、再度、山形へ赴いて手術を受けました。
その結果、梨状筋症候群であることがはっきりとして、しかも、外傷性であることが分かりました。
Bさんは、以上の経緯の中で、しびれの原因がはっきりしないために、労災が認められませんでしたが、上記の結果を受けて、愛媛労働局に対し、労働保険審査請求を申立てました。
しかし、この審査請求は棄却されたため、さらに労働保険審査会に再審査請求を申立てたところ、この再審査請求も棄却されました。
そこで、兼光弘幸弁護士は国を相手に療養補償給付等不支給処分取消請求事件を提起しました。
訴訟では、Bさんの右下肢のしびれが発症した時期や程度、右下肢のしびれの医学的な原因、そしてBさんの右下肢のしびれの原因が梨状筋症候群である場合に、右下肢のしびれの発症が今回の労災事故に起因するか否かか争われました。
判決では、当方の訴えが認められ、Bさんの右下肢のしびれの原因は梨状筋症候群によるものであって、これは業務上の傷病と認められ、Bさんに対する療養補償給付及び休業補償給付を不支給とした決定は違法であって取り消されるべきであるとの判決を得ることができました。
国は控訴を断念し、判決は確定しました。