• 借地・借家(貸主)

明け渡し

  • (賃料滞納による明渡しの事案)
    借主のひとりが家賃を滞納した挙げ句、行方不明になった場合、どう対処すべきでしょうか。
  1. 契約書には「1か月でも家賃を滞納した場合には、立ち入り調査の上、契約を解除できる。契約を解除した場合には、残置物を任意に処分できる。」と書かれてあります。

  2. また、契約書に「明け渡しに要した費用(裁判費用、弁護士費用、運送料、荷物運搬人日当、荷料等)はすべて借主の負担とする。」と書かれている場合、裁判に要する費用を借主に負担させることはできるでしょうか。
  • (回答)
    昨今の不況下において、借主が家賃を滞納する事例が増えています。この点、家主としてはなるべくそうした借主との契約は早期に解消したいですし、契約解除に伴う費用はできるだけ抑えたいと思うものです。しかし、現在の法制度において賃借人は強く保護されており、なかなか思うようにはいかないのが現実です。
  1. まず、家賃を滞納している場合にも、裁判所は1か月や2か月程度の滞納では、基本的に契約解除を認めないのが通常です。

  2. 自力救済の禁止
    そして、さらに滞納を続け、挙げ句の果てに行方不明となったとしても、立ち入り調査をしたり、さらに残置物を勝手に処分することは「自力救済の禁止」という原則によって、できないこととされています。 この自力救済の禁止という原則は、自己の正当な権利の実現であっても、相手方の意思に反して強制的に行うには法的手続によらなければならないというもので、法治国家における大原則とされています。 よって、法で定められた手続を経ずに、勝手に部屋の中に入ると建造物侵入罪(刑法130条)に、勝手に残置物を処分すると器物損壊罪(刑法261条)等に問われる可能性があり、また、民事上の損害賠償義務の発生原因にもなりえます。 よって、家主としては、原則として、強制執行を裁判所に申し立てる必要があります。

  3. 債務名義
    強制執行を申し立てるには、債務名義というものが必要です。金銭債権なら公正証書を作っていれば裁判をせずに強制執行することができますが、金銭債権以外は、裁判をせずに、公正証書で済ませることはできません。 よって、賃借人に裁判を起こし、勝訴判決を得る必要があります。

  4. 公示送達
    なお、借主が行方不明の場合、訴状が借主に届かないため、公示送達という方法をとることとなりますが、これは裁判所の書記官が、訴状を保管し、いつでも交付することを裁判所の掲示板に掲示して訴状の送達に代えるものです。

  5. 進行表
    下記の表で、相手方が行方不明になった場合の提訴から明け渡し完了までにどの程度の日数が必要となるか、その一例を示しましたが、これは順調にいった場合の例であって、必ずしもこのように進むとは限りません。

  6. 裁判費用の負担
    また、これらの手続に要する費用のうち裁判にかかる旅費、少額の日当、印紙代等は敗訴者に負担させることができますが、弁護士費用については、相手方の行為が不法行為を構成するような場合でない限り、負担させないのが判例です(高知地裁昭和58年9月5日判決等)。これは、契約書に弁護士費用の負担を明記してあっても同じです。

  7. 賃料相当損害金
    この点、通常、契約書には解除後、実際に明け渡しをするまでの間、借主に賃料の倍額の遅延損害金の支払義務を義務づけていることが多く、その有効性は基本的に認められているため、その遅延損害金を支払わせることで埋め合わせをすることも考えられます。 しかし、行方不明になっている場合をはじめ、賃料を滞納している借主は差押えの対象となる財産を有していない場合が多く、勝訴判決を得ても絵に描いた餅に終わる可能性が高いのが実情です。

  8. 以上のように、家主の権利行使は非常に制約があり、費用もそれなりに必要となります。よって、借主が滞納を始めれば早め早めに対処する必要があるでしょう。。

  9. 仮執行宣言
    なお、裁判は、普通、勝訴判決が確定しなければ、執行、すなわち、裁判の実現をすることができませんが、判決に仮執行宣言という宣言を付してもらえば、すぐに執行ができます。

  10. 断行の仮処分
    また、断行の仮処分という制度によって判決が出る前に権利の実現ができる場合もあります。借主がまだその住居に住んでいる場合には認められにくいのですが、借主が行方不明の場合には断行の仮処分が認められやすいです。なお、近年、住居内で自殺している場合、また病死しているような場合も増加しており、そういった意味でも早期に家を開けてみる必要があります。(賃借人が高齢者の場合には、裁判を経ずに開けて見ることも認められる余地もあるでしょう。)

  11. 連帯保証人
    なお、借主に連帯保証人がいる場合には、連帯保証人に滞納賃料や遅延損害金等の借主が支払うべき債務の全ての支払を請求することができます。

  12. 最後に
    以上の法的手続には事案に応じた処理が必要となるため、専門家に十分に相談することをお薦めいたします。

  13. 明け渡しのフローチャート
      (累 計) 相 談
    1か月 1か月  ↓
        訴状提出
    2週間    ↓
        相手方が行方不明であることの調査報告書
    の作成・提出
         ↓
        訴状の公示送達
    2週間 2か月  ↓
        第1回期日
    1か月 3か月  ↓
        判 決
    2週間    ↓
        判決の確定
    2週間 4か月  ↓
        強制執行の申立
         ↓
        明け渡し催告
    2週間    ↓
        引渡期日
    1か月 5か月半  

賃料(地代)回収

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